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東京地方裁判所 平成3年(ワ)5725号 判決 1993年10月15日

原告

市川将雄

原告兼右市川訴訟代理人弁護士

内田雅敏

右原告ら訴訟代理人弁護士

杉野修平

竹之内明

柳沼八郎

幣原廣

小泉征一郎

荒木昭彦

梶山公勇

小林美智子

城加武彦

遠藤憲一

高野隆

大口昭彦

飯田正剛

芳永克彦

内藤隆

山崎惠

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

赤池洋一

外三名

主文

一  被告は、原告市川将雄に対し、金一〇万円及びこれに対する平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告内田雅敏に対し、金八万円及びこれに対する平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一被告は、原告市川将雄に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告は、原告内田雅敏に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要及び争点

本件は、平成二年一〇月一〇日一六時三五分頃から一八時頃にかけて、原告内田雅敏が同市川将雄との接見を訴外築地警察署司法警察職員山口佳之に申し入れたが、訴外山口が右当日中の接見をさせなかった点について、①右対応が憲法三四条、刑訴法三九条に反する違法な接見拒否であること、②右対応が刑訴法三九条三項の要件(以下「接見指定要件」ということがある。)を満たすとしても、右規定は、憲法及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)に反し無効であるから、訴外山口の対応が憲法及び国際人権B規約に違反するものであること、を理由として原告らが被告に対して、国賠法一条一項に基づき、右接見拒否によって原告らが被った精神的損害の賠償を求めた事案である。本件の主な事実関係の概要は次の通りである。(以下、認定に用いた証拠は括弧内に掲げる。人証については、本人尋問の結果は「・・供述」、証言は「・・証言」という形で引用する。証拠を引用していない事実は、当事者間に争いのない事実である。)

一当事者等

1  原告市川将雄は、平成二年一〇月一〇日、東京都港区芝公園四丁目所在の芝公園で開催された「『即位の礼・大嘗祭』に反対する一〇・一〇全国集会及びそれに引き続くデモ行進に参加し、同日一五時五三分頃、東京都公安条例違反容疑で現行犯逮捕され、築地警察署に引致、勾留されたが、同月二〇日に釈放された者である。

2  原告内田雅敏は、東京弁護士会に所属する弁護士であり、港区新橋二―八―一六石田ビル四階所在の救援連絡センターに登録され(<書証番号略>)、平成二年一〇月一〇日の右デモ行進の際には、主催者の依頼により同行し、警察の行為を監視していたが(内田供述)、原告市川逮捕後は、同原告の弁護人になろうとする者として築地警察署に接見に赴いた者である。

3  訴外司法警察職員山口佳之は、右当時、築地警察署警備課長として、被告の公権力の行使に当たっていた公務員であり、右デモ行進の警備及び原告市川逮捕後はその捜査主任官として右事件の捜査に関する職務を遂行していた。

二事実経過(日付はすべて平成二年一〇月一〇日である。原告市川関係については、時刻の上に※をつける。)

※一六:一五頃から一六:二五頃築地警察署の司法警察職員が、原告市川に、被疑事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げて弁解の機会を与えたところ、原告市川は、自己の氏名、身上及び被疑事実については黙秘したが、弁護人については救援連絡センターの弁護士を選任する旨申し述べたので、その旨を弁解録取書に記載した(市川供述、山口証言)。

一六:二〇頃 訴外山口が築地署に帰署。当時三、四名が庁舎警戒にあたっていたが、同人は更に制服警官二名を警備にあたらせた(山口証言)。

一六:二五頃 原告内田が原告市川の友人訴外田代隆夫と共に(内田供述)タクシーで築地署玄関前に到着。その時、同署玄関付近を五、六名の制服警官及び私服警官が警備していた。そして原告内田と警備中の私服警官の一人との間で次のようなやりとりがあった。

私服警官 「どちらへ……」

原告内田 「本日のデモで先程逮捕された者に接見に来た。接見の申入れをしたいから、看守係の所に行きたい。」といって原告内田の名刺を出した。

私服警官 「ちょっと待ってください……」と言って名刺を受け取らなかった。

原告内田 「あなたは看守係か。中に入れてほしい。」

私服警官 「いや、私は違う。庁舎管理係だ。ちょっと待ってほしい。」

と言って原告内田の行く手を遮った。

その後しばらく、他の制服警官、私服警官が来て原告内田と押し問答をするが、身体の押し合いはなかった。

一六:三五頃 訴外山口が同署玄関口に出てきたので原告内田は名刺を渡して接見を申し入れたところ概ね次のようなやりとりがあった。(以下、この時の交渉を「交渉①」ということがある。)

訴外山口 「今、逮捕したばかりで調べ中なので、しばらく待ってほしい。」

原告内田 「弁護人依頼権は憲法、刑訴法で保障された権利だ。直ちに接見させてほしい。」

訴外山口 「いや、調べ中だからしばらく……」

原告内田 「『しばらく』とはどのくらいなのか。」

訴外山口 「いや、それは分からない。」

原告内田 「分からないって、しばらくとはどのくらいの時間なのか言ってほしい。」

訴外山口 「いや、それは言えない。とにかく、しばらくだ。とにかく調べ中だし、本人が弁護人を選任するかどうかも確認しなくてはならない。」

原告内田 「とにかく、私は一六時三五分に接見の申し入れをしているのであるから直ちに接見させてほしい……」

一六:四〇頃 訴外山口が署内に引き上げた(内田供述)。

救援センターより築地署へ原告市川の引致の有無及び同センターの弁護士の弁護人選任の確認の電話(伊藤証言、<書証番号略>)。

※一六:四〇頃 原告市川の写真撮影(市川供述)。

※一六:四五頃 訴外築地警察署警備課巡査部長近藤仁志は、訴外山口の指示を受け、右写真撮影に引き続き取調べを開始(山口証言)。

ところで、原告市川は、右写真撮影後に取調べはなく、留置場の準備ができるまで待たされただけであると主張しており、同原告の本人尋問においてもこれに沿う供述がある。しかし、同原告の反対尋問における供述によれば、警察官と取調室で一緒に机をはさんで向かい合うような形で座り、その警察官から逮捕されたことや同原告の名前は何というのかということ等について話しかけられたという事実を認めることができ、取調官としては、自己の氏名を含めて黙秘している状態であった原告市川に種々話しかけるなどして同原告の翻意を得ようと努めていたことが窺われ、取調べの実質があったと認めることができる。

訴外山口が署内に戻って原告市川の取調べ状況を確認したところ、弁解録取書の作成及び写真撮影等が終わり、取調べが始まって間もない段階であった。そして弁解録取の際、原告市川は身上関係及び事件の事実関係について黙秘していたが、弁護人の選任については、救援センターの弁護士を選任する旨述べていることを知った。また、訴外山口は留置主任官である訴外森岡警務課長と接見等につき協議し、①原告内田と接見させる場合には原告市川の留置手続後接見室で行うこと。②食事時間の前後は留置場の戒護体制が手薄になることから接見させないこと、③原告市川を留置した段階で夕食をとらせることとした(この段落全体につき山口証言)。

一七:〇〇頃 救援センターより築地署へ原告市川の弁護人選任の確認及び原告内田が同署へ接見に赴いている旨の電話(伊藤証言、<書証番号略>)。

一七:一〇頃 訴外山口が再び玄関口に出てきて、原告内田と概ね次のようなやりとりをした。(以下この時の交渉を「交渉②」ということがある。)

訴外山口 「本人は救援センターの弁護士を選任すると言っている。」

原告内田 「私が救援センターの弁護士だ。」

訴外山口 「いや、救援センターに電話をして確認する。それと、さっきも言ったように今調べ中だから、しばらく待ってほしい。」と言って訴外山口は、署内へ引き上げた。

一七:二〇頃 救援センターより築地署へ原告市川の弁護人選任の確認及び原告内田が同署へ接見に赴いている旨の電話(伊藤証言、<書証番号略>)。

※一七:二八頃 被留置者の夕食時間である一七時を経過したため、訴外山口は、訴外近藤に対し、原告市川の取調べを一時中断して、留置場で食事をさせた後、再び取り調べるように指示したところ、訴外近藤は原告市川を築地警察署留置場に留置した。なお、一七時二八分は、留置場への入場時刻である(<書証番号略>、山口証言)。

ところで、原告市川は、一七時少し過ぎには、取調室を出て、留置場に入場した旨主張しており、同原告の本人尋問でもこれに沿う供述をしている。しかし、他方、原告市川は、同原告が、留置場に入った際には他の留置人は食事中であり、場内で身体検査等をされているときに彼らは、食事の後片づけを始め、原告市川が房に入ったときには、夕食を終えていたと供述している。これを、築地警察署においては、留置人の夕食時間が一七時からであること(山口証言)、原告市川の身体検査は留置場入場後すぐ行われ、一五分から二〇分くらいかかったたこと(市川供述)と突き合わせて考えると、<書証番号略>記載の通り、原告市川の入場時間は一七時二八分頃と認めるのが相当である。

一七:四五頃 訴外山口が三たび玄関口に出てきて、原告内田と概ね次のようなやりとりをした。(以下この時の交渉を「交渉③」ということがある。)

訴外山口 「内田弁護士が救援センター弁護士であることは確認できました。しかし、今は調べ中なので、会わせることができない……明日一〇時以降に……」と接見の指定をし、引き上げようとした。

原告内田 「私は四時半から来て、こうして接見の申し入れをしている。明日でなく今日接見したい。直ちに接見させてほしい。」

訴外山口 「とにかく今はダメです。明日来てください。」と言って署内に引き上げた。

原告内田 「警備課長、待ってくれ……」と声をかけるが、入口付近の制服警官、私服警官にさえぎられる。

一八:〇〇頃 原告内田は、築地警察署玄関前から引き上げた。

一八:一〇頃 原告市川の逮捕現場(東京都中央区銀座四丁目一番二号築地警察署数寄屋橋派出所前付近道路上)で実況見分を行っていた捜査員から訴外山口に応援依頼があり、同人は、訴外近藤外一名に対し、右現場に向かい実況見分の補助をするよう指示した(山口証言)。

※一八:一五頃 看守係より訴外山口に原告市川の夕食が終了した旨の連絡が入った(山口証言)。

二〇:〇〇過ぎ頃 訴外近藤が前記実況見分先から築地警察署に帰署した。訴外山口は、この時点から取調べを開始すれば、深夜におよぶ虞があると考え、その日の原告市川に対する取調べを中止させた(山口証言)。

三争点

1  原告内田の接見申入れに対する訴外山口の対応についての違法性の存否(訴外山口の故意又は過失の存否を含む)

2  (1の判断で訴外山口の行為が刑訴法三九条三項に該当するとされた場合)刑訴法三九条三項の憲法違反、国際人権B規約違反の主張について

3  原告らの損害

第三争点に対する判断

一訴外山口の対応についての違法性及び故意又は過失の存否(争点1)について

1  刑訴法三九条三項にいう「捜査のため必要があるとき」の意義

弁護人又は弁護人になろうとする者(以下、「弁護人等」という。)との接見交通権は、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上重要な権利に属すると共に、弁護人にとっても重要な固有権の一つであるということができる。この点に鑑みれば、刑訴法三九条三項の規定による捜査機関のする接見又は書類若しくは物の授受の日時、場所及び時間の指定は、必要やむを得ない例外的措置であって、これにより被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されない。したがって、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見の機会を与えなければならず、これを認めると捜査の中断による支障が顕著な場合に限って、弁護人等と協議してできるだけ速やかな接見等のための日時を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採るべきである。

そして、右にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の接見の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである(最高裁昭和五八年(オ)三七九、三八一号同平成三年五月一〇日第三小法廷判決民集四五巻五号九一九頁)。

2  ところで、先に認定した本件の事実経過によれば、原告内田の訴外山口に対する接見の申入れは、同原告が築地警察署玄関前に待機していた間、即ち一六時三五分頃から本件接見指定のなされた一七時四五分頃まで継続していたものと考えることができる。そして、接見指定要件の存否は、捜査機関の活動状況により時々刻々と変わっていくものであるから、右接見申入れが継続していた時間を追って、訴外山口の作為及び不作為の違法性及び右行為についての故意又は過失の存否を検討することとする。

3  まず、一六時三五分頃(交渉①の段階)には、被疑者を逮捕して警察に引致した後に不可欠な弁解録取、弁護人選任意思の確認、写真撮影等一連の捜査手続が順次行われ、これに引き続き、一六時四五分頃から取調べが開始されている。したがって、この段階では、右一連の捜査の中断による支障は顕著であると認められ、接見指定要件は存在していたものと考えられる。ただ、右時点では、訴外山口も帰署して間もなく、捜査の状況に十分な見通しを持っていなかったともいえることを考えれば、この段階で、即座に接見指定権の行使をしなかったことをもって直ちに違法とまでは評することができない。

しかし、一六時四〇分頃に救援センターより築地署に原告市川の引致の有無及び同原告が右センターの弁護士を選任したかといった旨の、更に一七時頃には、同センター所属の原告内田が原告市川と接見するため同署に赴いている旨の電話連絡がなされている上、訴外山口は、一六時四〇分過ぎ頃、原告市川が救援センター所属の弁護士を選任したと知らされていることから、同人は、原告内田が原告市川の弁護人になろうとする者であることを容易に確認しえたということができ、また、訴外山口は、警務課長の前記森岡との協議により、取調べを一時中断して夕食をとらせる予定としていたことに鑑みれば、一七時頃には、訴外山口は、原告市川の取調べ中断時刻を見計らい、接見を右時刻頃に指定すべきであった。

しかし、訴外山口は、漫然と右義務を怠り、交渉②の段階でも指定権を行使することなく、接見を拒否し続けた。これは、刑訴法三九条一項に反するものである。

なお、決められた夕食時間中に夕食をとることになっている通常の在監者(被疑者)については、右時間に及ぶような接見は、同人にとっての夕食の重要性及び管理者側の管理上の問題があることから、接見の緊急性といった特段の事情のない限り、接見の時間を夕食の前後等に限ることを相当とすべき場合が想定できないものではない。しかし、本件の場合は、そもそも原告市川に対し、他の在監者と同じ食事が準備できず、食パン数切れと湯があてがわれたにすぎないことが認められ、右事実に鑑みれば、食事前又は食事をしながらの接見も十分可能であったし、管理上の不都合も特に認められなかったといわなければならない。また、被告は、夕食頃の時間帯における戒護上の問題を指摘するが、憲法に由来する権利である接見交通権の重要性に鑑みると、取調室から留置場に原告市川を連れていくまでの戒護ができて、接見のためのそれができない理由はなく、右主張は採用できない。

4  次に、一七時二八分前頃には、そもそも取調べが原告市川の夕食のために中断されているのだから、短時間に限るという形での接見時間の指定の余地はあったにせよ、それ以外(例えば、接見日時)の指定要件が備わっていたとはいえず、訴外山口は、直ちに原告内田の接見申入れを認め、原告市川と接見させるべきであった。然るに、訴外山口が漫然と右義務を怠り、事実上の接見拒否を維持していたことは、刑訴法三九条一項及び同三項に反するといわねばならない。

5  訴外山口は、一七時四五分頃の交渉③の段階で「翌日の午前一〇時以降」という形で接見指定をしているが、右指定について接見指定要件が具備されていたといえるか。

確かに、山口証言によれば、同人は、原告市川の夕食後に取調べの再開を予定していたことが認められる。しかし、原告市川は、東京都公安条例違反(デモ行進の許可条件違反)被疑事実でこれを現認していた警察官に現行犯逮捕された者であり、しかも、夕食前の取調べでは、同原告は、黙秘を継続していたことに鑑みれば、夕食後一定時間の接見を否定してまであえて直ちに取調べを再開しなければならない必要性は小さかったものと評価せざるをえない。とすると、右取調べ予定は、接見時間の指定要件とはなりえても、一七時四五分の段階での接見を全く拒否できるような接見指定要件とはなりえない。従って、訴外山口は、遅くとも原告市川の留置手続が終了し次第直ちに原告内田に対し、原告市川と接見させるべきであったのに、漫然としてこれを怠り、接見日時を翌日の午前一〇時以降と指定したのは、刑訴法三九条三項に反するものといわなければならない。

二刑訴法三九条三項が憲法及び国際人権B規約に違反するとの主張について

原告らは、そもそも刑訴法三九条三項は憲法及び国際人権B規約に違反するので無効であると主張するが、前記のとおり、訴外山口の措置には刑訴法三九条一、三項に違反するところがあり、これを違法な公権力の行使であると認定して原告らの請求について判断しうる以上、訴外山口の措置が同三項の要件を満たすことを前提とする右主張についての判断は要しないものというべきである。

三原告らの損害

訴外山口の右各行為(作為、不作為)により、接見交通を妨害されたため、原告市川は、弁護人を選任する旨意志表示したにもかかわらず、適当な時期に適切な助言を受ける機会を喪失し、原告内田においても、弁護人として十分に職責を果たすことができなかったため、原告らは、精神的損害を被ったことが認められる。

原告市川供述によれば、同原告の一〇日間の勾留中、平成二年一〇月一一日に訴外三島弁護士と接見したのをはじめとして合計三回接見した事実を認めることができる。そして、同月二〇日に釈放されていることも考慮すれば、原告市川の精神的苦痛を慰謝すべき金額は、金一〇万円が相当である。

ところで、弁護人の接見交通権は、その固有権であるとはいえ、その重要性は、被疑者の弁護人依頼権に由来するものであり、それが侵害された場合に弁護人の被る精神的損害は、被疑者が接見交通権を侵害された場合に被る精神的損害と比べて通常間接的なものにとどまるといわざるを得ない。本件において、訴外山口の右各行為により、原告内田が、原告市川とは独立に特別の精神的損害を被ったという事情は認めることができない。以上の点を考慮すると、原告内田の精神的苦痛を慰謝すべき金額は、金八万円が相当である。

右各損害賠償金には、不法行為の日である平成二年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を付することを要する。

なお、仮執行宣言は、必要が認められないので、その申立てを却下する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官尾島明 裁判官飛沢知行)

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